おじさんに見えるが実はおばさんである。
白い髭に見えるのはケーキの生クリームだろう。
食い過ぎじゃ。
口の周りを拭け。
旦那がトナカイになって鞭で叩かれて走らされてます。
「お前、もうちょっと痩せろよ」
「寒い冬を越えるにゃいっぱい食わなきゃ駄目なんじゃ」
ガキがいそうな家を発見。
クリスマスツリーが飾られている。
煙突などないので、
サンタのおばさんは髪の毛から針金を取り出し、
玄関のドアノブに差し込み
がちゃがちゃ・・・かちっ
開いた・・・
何て不用心な家だ。
てか、おばさん。
何故鍵を開けられるんだ・・・
部屋に忍び込み子供の靴下の中に
毬栗を入れる。
「栗で済ます。だからクリスマス!なんつって!うひゃひゃひゃひゃ」
駄目だこりゃ・・・
台所へ行き冷蔵庫を開け
余ったシャンパンとケーキと七面鳥を唐草模様の袋に入れ
その場を立ち去るサンタのおばさん。
トナカイの旦那は外で放置されて凍死寸前でした。
「俺を殺す気か!」
「まだ死んでなかったのか・・・」
「毎年のことだから慣れてる・・・」
翌朝
子供が靴下を履こうとしたら
「いたたた!なんだこりゃ?誰なんだよ!こんなイタズラする奴は!」
毬栗を割って中身を見る。
痛かったけど中には実が入ってるはず。
それを食えれば許してやろうと思った。
だが、中には実がなく
小さなメモ紙が入っていた。
『世の中そんなに甘くはない』
「・・・・・・」
「父ちゃん、母ちゃん!誰だよ!これ入れたのは!」
「俺は知らんぞ・・・ああ・・・おせちには栗きんとん・・・」
「私はモンブランが良いわ♪」
「・・・・・・」
「きっとサンタさんからのプレゼントだよ。足つぼマッサージ用に」
「プレゼント用意してなかったから助かったわ♪」
「・・・・・・(バカ親め)」
「来年の秋はみんなで栗拾いにでも行こう。」
「駄目よ、山で遭難したら大変よ。庭に栗の木を植えましょうよ。」
「・・・・・・・(そんな話しをしてるんじゃない)」
「ああ!!!冷蔵庫に昨日の余りものがないじゃないかー!」
「腐り過ぎてなくなったんじゃないの?」
「そんなわけあるかー!食ったのお前だな?」
「違うわよ、今私ダイエット中」
「そうなると・・・お前か・・・?」
「父ちゃんと母ちゃんのばかー!!!」
泣いて家を飛び出そうとする子供
それを引き止めようと
「まて!!!外へ行くなら防寒用長靴が良い」
「カイロも持って行きなさい」
「・・・・・・ばかばかばかーーーー!!!!!」
呆れて涙も出さずに家を飛び出す子供。
だが、玄関を出てすぐ何かにつまずいてコケる。
「いたたた・・・ありゃ?馬面のじいさんと全身赤いばあさんが居る」
酒を飲み過ぎて路上で寝ている老夫婦につまずいてコケたのだ。
「おや、坊や。走るときは気をつけなされ。大怪我するぞ」
「ばあさんこそ飲み過ぎに気をつけろよ・・・」
「どうした?家出かい?親と喧嘩でもしたのかい?不良息子め」
「だって、父ちゃんも母ちゃんも馬鹿なんだ」
「あんたは馬鹿から生まれた息子だよ」
「うぐ・・・」
「親を馬鹿にする奴は自分も馬鹿になるんだよ」
「うるさいやい!」
「良いかい?あんたの親も昔は子供だったんだよ、わしは大昔だが」
「・・・うん」
「身体は大きくなる、いろんなことを覚えていく。でも子供の頃のことは忘れてないはずだよ」
「そうなのかなあ・・・」
「親は神様じゃないんだ、何でも出来るわけじゃない。坊やと同じ鼻っ垂れの馬鹿息子のクソガキだったんだよ」
「・・・一言多いよ・・・」
「もう坊やも一人の人間なんだよ。親も人間。年齢が違うだけだよ」
「確かに・・・」
「親だとか子だとかに拘らず同じ人間同士話し合うことができるじゃないか」
「うん・・・」
「家出するのも結構だが、ひとりで生きていけるのかい?」
「無理だと思う・・・」
「生きるために貪欲になりなはれ、誰と一緒に居ようが自分が生きることを考えなされ」
「うむむ・・・」
「生かしてもらってるのではない、育てて貰うのが当たり前じゃない」
「うん・・・」
「人として向き合いなさい。それで憎んだり絶望するなら仕方ない。でも坊やはまだ早い」
「わかったよ」
「でもね、坊やが家を飛び出したことで親も多少は頭冷えたんじゃないかい?」
「どうかなあ・・・」
「感情的な行動も必要だよ。でもそのあとで考えることも必要だよ」
「そうだよね」
「んで、どうする?坊や」
「家に戻るよ。話ししてみる」
「おう、そうかい。それは自分で決めたことなんだね。それなら胸張って行きなさい、うじうじしないで」
「うん、そうするよ」
「これ持って行きなさい」
「あ?毬栗だ・・・?」
「それでは、さらばばあじゃあ」
「・・・・・・あのばばあめえ・・・」
子供は家に戻る
ドキドキしながら
「父ちゃん母ちゃん・・・毬栗で痛かったんだよ・・・プレゼントなくて哀しかったよ・・・」
「すまん・・・わが息子よ・・・冬のボーナス入らなかったんだよ・・・」
「ごめんね・・・あなたのことより自分へのプレゼントばかりせびって・・・バッグとか」
「・・・・・・わかったよ。来年こそプレゼントちょうだい」
「うん、約束するよ。頑張って冬のボーナス貰うよ」
「ええ、ブランド物は我慢するわ」
「じゃあ、これあげる」
「うん?毬栗?」
「あらま?毬栗」
「さっきサンタさんに貰ったんだ」
「おお?これは俺のものだ」
「いいえ、私のものよ」
「仲良く分けてよ・・・」
「いや、そうはいかん。息子が帰ってくる方に賭けてた俺のものだ」
「違うわよ!捜索願い出すまで帰って来ない方に賭けてたじゃない」
「・・・待て・・・お前ら・・・俺の家出で賭けをしてたのか・・・」
「めりーくりきんとん♪」
「まろんぐらっちぇ♪」
「・・・こういう親にはなりたくない・・・」
プレゼント
たかが毬栗されど毬栗
ちょっとした贈り物が
家族にまで大きな影響を与える
あなたは何を贈りますか?
聖なる夜にするために
サンタばばあとトナカイじじいにとって
未来のことなど知ったことではない
「老後は何をしようか」
「もう老後じゃろ、じじい」
「老後だか何だか知らんが楽しく生きよう」
「んで、じじい。わしへのプレゼントは?」
「わしの入れ歯を・・・」
「要らん、それは去年わしがあげたプレゼントじゃ」
「ああ・・・間接ディープキスになるかと」
「気持ち悪いわ、じじい。早よくたばれ」
「肩でも揉んでやるわい」
「腕力ないんじゃから無理するな」
「がっちりした肩じゃのう、なかなかくたばらんな」
「わしゃくたばりはせん。じじいが居なくてもな」
「何を言っておる。寂しくて死にそうになるじゃろ」
「ボケが始まってるぞ、じじい」
「まだしっかりしておる。ちゃんと肩を揉めてるじゃないか」
「そこ肩じゃなくて尻じゃぞ」
「あ・・・」
聖なる夜は若いカップルと家族だけのものじゃない。
星屑はあらゆる垣根を越え満遍なく降り注ぐ。